SEM観察用試料 CP・イオンミリング前の精密断面二次加工

全固体電池の充放電後の劣化状況を評価する、SEM観察用サンプル作成の事例です。

充放電後のコインセルから5mm角で試料を切り出してから、CP(クロスセクションポリッシャー)にかけ、SEM観察を行います。
このCP前の切り出しの段階で、打抜き時のダメージにより断面構造が破壊されてしまい、充放電による崩壊との判別がつかない状態でした。

そのため、打抜きによるダメージがないと思われる深さまでCP加工とSEM観察を繰り返しながら評価を行わざるを得ず、「1回10時間以上」のCP加工の時間とコストが問題となっていました。

この事例のポイント

  • お客様のご相談:CP加工前の試料断面の品質をできる限り改善したい
  • 技術上の課題:異種多層材料の断面を、極限までダメージを抑えて仕上げ加工する
  • 野上技研の提案:独自のノーダメージ工法による断面仕上げ用ツールでの二次加工
  • 採用結果:CP加工深さが 100μm 以内で済むようになり、大幅なコストカットに

超高品質な断面が安定して得られ、SEM観察のサイクルが高速化!

お客様の課題

  • CP加工前のサンプルの切り出し時に、断面構造が破壊(割れ・崩れ・層間の剥離)
  • 異なる材質の多層材であるため、レーザーカットは不可
  • 金属の層も含むため、ミクロトームも使用不可
  • 荒い断面にCP加工を長時間かけるため高コストに、SEM観察の頻度を上げられず

打抜き時の応力により断面構造が破壊

打抜きの応力により断面の破壊(割れ・崩れ・層間剝離)が起こり、充放電による劣化との判別がつかない状態でした。
加工によるダメージがないと見做せる深さまでCP加工を行う必要があり、長時間の加工を繰り返し行わざるを得ませんでした。

多層材でレーザーカットは不可 金属層ありミクロトームも不可

レーザー加工では、異なる材料の層ごとにレーザーによる変質の大きさや性質が異なり、全固体電池フルセルとしての、本来の性質を保った加工は不可能でした。
また、リチウム金属の層を含んでおり、樹脂や生体組織などの断面を加工するミクロトームも、採用できませんでした。

グローブボックス内での微小ワークの取り扱いが困難

硫化物系固体電解質は大気中の水分と反応して有害なガスが発生する為、低露点のグローブボックス内で取り扱う必要がありました。
動きが制約されるグローブボックス内で、5mm角のワークを取り扱う細かい作業をミスなく行うのは難しく、経験を積んだ特定の実験スタッフでなければ実施できないのが課題でした。

野上技研のご提案

  • 5㎜角のワーク切り出しと、CP加工前の断面を仕上げ加工する工程とを分ける
  • 各層の素材の特性や、層間の密着強度が異なる積層材の断面加工に最適な新工法を採用
  • 小さいワークの脱着がグローブボックス内でも簡単に、確実に行える操作性を確保
SEM観察用試料 仕上げ加工用治具
SEM観察用試料 仕上げ加工用治具

採用結果

  • 極めて高品質なサンプル断面を、安定して得られるようになった
  • グローブボックス内での作業が簡単になり、作業時間も短縮された
  • 実験精度を上げながらも、より早いサイクルでのSEM観察が可能になった

極めて高品質な断面

サンプル打抜き後に、新たな仕上げ加工用ツールで二次加工を行う手順に変更しました。
仕上げの二次加工の結果、断面へのダメージが「まったくない」といっても良い程の、極めて高い品質の断面が得られました。

お納めした『SEM観察用試料 仕上げ加工用治具』と同様の工法で加工
[ 写真はデモ用の負極材 1000倍で撮影]

ハンドリングのミスを予め排除する治具の使用手順と作業性

仕上げ加工用ツールへの試料のセット~加工、材料の取り出しまでの手順は、その後の取り回しも含めて、細かな工夫が施してあります。
狭いグローブボックス内で、手に大きなグローブを付けた状態でも、誰もが最小の手数で、ミスなく、スピーディーに作業できる様になりました。

SEM観察前のCP加工深さは 100μm 以下に、回数も1回だけに

サンプル加工時の応力による断面へのダメージが無い深さまでCP加工する、といった工程が実質的に不要になりました。
CP加工の本来の目的である、SEM観察前の試料界面の最後の仕上げのみ、1回だけで済みます。コスト低減と同時に、観察結果の信頼性も大きく向上しました。

お客様のコメント

これまでに見たことのないような綺麗な断面

CP加工前に断面の状態を500倍で観察していますが、その倍率で見て分かるような変形やクラック、剥離などがありません。これまでに見たことのないような、綺麗な断面が得られています。

サンプル品質が大きく改善し、かつ安定したおかげで、信頼性の高いSEM観察ができています。実験サイクルも速められ、業務進行のスピードを大きく早められました。

作業性の面でも、サンプルのセット方法が良く考えられていて、とても簡単なのがありがたいです。とても難しく時間のかかっていたグローブボックス内での作業も、今では誰にでも正確にできるようになりました。
電池材料開発部門・A様